「Think Small」という衝撃的なスローガンを1959年に世に出したのは、20世紀を代表するコピーライター、ウィリアム・バーンバッグであった。「巨大であること」が豊かさの象徴であった時代、小型車フォルクスワーゲンをアメリカで売り出すために彼が考えついたコピーが、「Think Small」であった。

このスローガンは、1950年以降のアメリカ経済のみではなく、広告業界の常識を覆したともいわれている。

Think Smallなオークション?

さて、このバーンバッグのスローガンを実践しているのかと思わせるのが、6月21日から開催されるサザビーズのオークションだ。ライバルのクリスティーズも、6月27日からオークションを開催予定だが、いずれのオークションも「現実的な大きさの現代美術」がウリになっている。

オークションのカタログを見ても、以前のようなサイズの大きい作品はほとんど見あたらない。

巨大な作品から一点

ここ数年、オークションには個人では到底購入不可能な巨大な作品が落札されることも多かった。金額的な大きさではなく、物理的な大きさである。

たとえば、今年の5月から6月2日までニューヨークのロックフェラープラザに設置されていた巨大なバレリーナ像だ。ルイ・ヴィトンとコラボしモナリザをプリントしたバッグを考案した現代美術家ジェフ・クーンズ氏のバレリーナ像は、高さがなんと13,7メートルもある。

また、今年の4月、ヴェネツィアのビエンナーレに登場したダミアン・ハーストの悪魔像は、高さが18メートル。

さらに、毎年開催される現代美術展「アート・バーゼル」にも、巨大な作品が並んで話題となった。公共の場で提供される芸術は、「大きいこと」がまず衆目を集める条件となっているのだ。

小さい作品でも値段は..?

こうした風潮に対抗するように、サザビーズのオークションのカタログには、いわゆる「小作品」が並んでいる。カタログには、コールダー、ゴッホ、ピカソ、ミロ、ルシアン・フロイド、ルーチョ・フォンタナ、ピエロ・マンゾーニ、そしてセザンヌなどの作品が「原寸大(Actual Size)」という表記とともに載っているのだ。

いかに小規模な作品であるか、カタログを見るだけでよくわかる。

オークションを紹介するビデオにも、「Little Can Be Delicious(小さいことは趣味がいい)」という宣伝文句が登場する。

しかし、作品が小規模であろうと推定評価額はけっして「小さく」はない。6月の後半から始まるオークションには、こうした作品の落札額がどこまで跳ね上がるか、我々は高みの見物といったところだ。

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