作品概要
《エウロパの略奪》は、画家のティツィアーノ・ヴェチェッリオによって制作された作品。制作年は1560年から1562年で、イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館に所蔵されている。

《エウロパの略奪》は1560-1562年頃に、ティツィアーノ・ヴェチェッリオにより作成された油彩画である。
詩想画(ポエジア)
ティツィアーノは、その生涯の間に作品の表現方法や情感を何度か変化させている。フェラーラのアルフォンソ・デステ公の書斎のために描かれたバッカスとアリアドネなどの絵画は概ね陽気である種の若い情熱に満ちているが、1550年代になると、スペイン王フィリペ2世のもとで働くようになる。
1553年から彼は、7枚の神話がに着手する。このシリーズの題材はどれも過ちを犯してしまう人間というものの弱さを扱ったかなり複雑な作品である。ティツィアーノはこれらの作品をポエジア(詩想画)と呼んだ。
題材
フェリペ2世のために描かれた連作であり、古代神話を題材にした「ポエジア」7作中の最後の1作である本作品は、主神ゼウスが人間の美女エウロパに白い雄牛に化けて近づき、エウロパが油断して雄牛の背中に乗ったところをクレタ島まで連れ去ってしまったというシーンを題材にしている。
エウロパの今にもずり落ちそうな体勢、乱れた衣服、雄牛の下に顔を出す恐ろしげな魚などによって、ティツィアーノはエウロパの置かれた境遇をドラマチックに表現した。フランソワ・ブーシェやクロード・ロランなどにより同一タイトルの同シーンが描かれているが、緊迫感においてはティツィアーノの作品が群を抜いている。
「ポエジア」は主題もバッカナールとは大きく異なるが、表現方法も本質的に異なっている。バッカスとアリアドネなどの作品がある意味明確な描き方を基盤としているのに対し、「ポエジア」はかなり大まかな筆致で描かれているのが特徴である。
本作はティツィアーノの絵画が重要な発展を遂げたことを示すもので、ヴェネツィア絵画の感情表現の幅だけでなく、そうした感情を伝えられるような実際の技術の幅も広げたのである。
《エウロパの略奪》の略奪
この作品は、19世紀末にヨーロッパで売りに出されたが、ルネッサンス美術の専門家、バーナード・ベレンソンの仲介を受けたアメリカ人、イザベラ・スチュワート・ガードナー夫人により購入され、現在ではボストンにあるイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館に所蔵されている。
当時アメリカは経済的に大きく発展しつつあり、ガードナー夫人が言い値で即決したため、交渉予定であったヨーロッパの収集家たちの怒りを買った。《エウロパの略奪》というタイトルの絵画がヨーロッパからアメリカへ、いわば海を越えて略奪されたわけである。
マドリッドのプラド美術館には、ルーベンスによる本作品の模写が残されている。
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