作品概要

最後の審判》は、画家のミケランジェロ・ブオナローティによって制作された作品。制作年は1536年から1541年で、バチカン宮殿システィーナ礼拝堂に所蔵されている。

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《最後の審判》はイタリア、ルネサンス期の芸術家ミケランジェロ・ブオナローティによる壁画の代表作であり、システィーナ礼拝堂のフレスコ壁画である。

聖書の一場面

アレキサンドリアのカタリナ、ペテロ、ラウレンティウス、バルトロマイ、パウロ、セバスティアヌス、洗礼者ヨハネなどの重要な聖人たちによって取り囲まれているキリストの審判によって、人間の魂の運命は天国か地獄かが決められるが、その場面を描いた本作は聖書の記述を元にしている。

1994年4月8日の聖ヨハネ・パウロ二世の講話で、最後の審判は以下のように語られている。

「一方で美しい肉体を、他方では永劫の業罰を受けなければならぬ人々に感嘆しながら、最後の審判の前では我々は荘厳と恐怖に目が眩むならば、我々はまた、その全体のヴィジョンに一つは光が、一つは芸術の論理が貫いていることを理解するだろう。光と告白により「教会」が宣言する信仰の論理、私は『神』を信じている……可視的なものと不可視的なものの全ての、天国と大地の創造者たる『神』を。」

制作まで

完成までに、1536年から1541年の4年の歳月を要した本作だが(祭壇の壁の準備を始めたのは1535年)、ミケランジェロが本作の制作を始めたのは、システィーナ礼拝堂の天井画が完成された25年後であった。

年齢を重ねたミケランジェロは、ローマ教皇クレメンス7世からこの重要な絵画の制作依頼を受けた。本作品のオリジナルのテーマは「キリストの復活」であったが、教皇の死によって後継者であるローマ教皇パウルス3世が、1530年代のローマにとって《最後の審判》がより適した主題だと考えたことから、変更された。

裸体の人々

伝統的な中世の《最後の審判》は社会的な立場上、服を纏っていたが、ミケランジェロは新しい基準を確立した。革新的なコンセプトは裸体にすることにより階級を取り除き、平等を表現した。

天国へ昇る者を左へ、地獄へ降りる者を右に配置することにより天国と地獄の分離を描写した。《最後の審判》は天井画のフレスコ画よりも淡彩画で、大量の人間と空に埋め尽くされている。

修復と発見

本作は、ファブリッィオ・マンチネルリによる監修の元で、ヴァチカン美術館のシスティーナ天井と共に1980年から1994年にかけて修復された。この修復によって作品を覆っていたイチジクの葉は、およそ半分が取り除かれた。

また修復によって、煙とすすの下に隠れていた何年もの間見られることのなかった数多くの埋め込まれた細部が明らかになった。

ミノスとしてロバの耳とともに描かれていたビアージョ・ダ・チェゼーナのフレスコ画は、ぐるぐると身体に巻き付いた蛇によって生殖器が噛まれているのが発見された。

また、生皮を持つ聖バルトロマイの右下の地獄への有罪を宣告された人物は、イチジクの葉が取り除かれるまで何世紀も男性だと考えられていたが、女性であることがわかった。

フレスコ画の洗浄と修復によって以前よりもかなり鮮やかになり、オレンジ、緑、黄色、青が全体に散りばめられ、複雑な構図を一体化させ、作品に生命を吹き込んでいる。

構図と人物

1536年と1541年の間にミケランジェロにより描かれたその力強い構図は、キリストの支配的な御姿を中心として、「最後の審判」を言われるときの一瞬が捉えられている。キリストの穏やかな誇り高い仕草は、仰せられる意と動揺する周りを懐柔することの両方のように見える。

全ての形ある存在は連関し、全体が大きくゆっくりと回るように描かれている。その流動性から除かれるのは、「受難」の象徴として飛翔する天使が集まる二つの上部の半円形の窓である。左には十字架、釘と茨の冠が、右には天罰の円柱、酢を含んだスポンジの階段と槍。

キリストの傍には、処女マリアが配置されており、覚悟の仕草で振り返っている。マリアは審判に関わることができず、その結果を待つのみである。聖人と選ばれし人々が、キリストと処女マリアの周囲を取り囲み、不安げに審判を待っている。

描かれた人物の中には、2つの鍵を持っている聖ペテロ、すのこを持っている聖ローレンス、嵌め歯車を持っているアレキサンドリアの聖キャサリンと弓を持って跪いている聖セバスチャンがいる。

また、下方中心には長いトランペットの音で死を目覚めさせている、黙示録の天使たちが確認される。

描かれたミケランジェロ

キリストの右下に配置されている、彼自身の抜け殻の皮を持つ聖バーソロミューは、ミケランジェロの自画像であると一般的に認められている。

左には天国へと上ってゆく肉体が復活したものたちが(肉体の蘇生)、右には天使たちと悪魔たちが地獄の奈落へと落とそうと戦っている。最後に下部では櫂を持ったケロンが悪魔とともに、地獄の審判をするミノスの前に彼らを船から落とそうとしている。

以上の人物像と物語は、ダンテ・アルギエールの『神曲』地獄編を参照として描かれている。

批判

賞賛とあわせて、《最後の審判》は同時代において批判的な反応を引き起こした。多くの批判は、「ミケランジェロは、教会に相応しいかを考えず、聖書の内容よりも自分のスタイルを重要視して本作を描いた」と告発するものだった。

たとえば、チェゼナのバッジオの儀式の主人は「裸の人間たちが不誠実に彼らの恥ずべきものをあまりに多くを描いたことは誇るべき場所に最も不誠実なものがあり法王のチャペルの作品としてではなく、温室か居酒屋にあるべき作品だ」と言った。

教皇の祭典主ビアージョ・ダ・チェゼーナは、「神聖な場所で裸体の描写はもっとも不名誉なことだ」と語り、《最後の審判》がローマ教皇の教会の作品ではなく、「公衆の風呂と酒場」の絵画だと主張した。

ミケランジェロは、このチェゼーナの顔をミノスとして、蛇に巻き付かれた裸体でロバの耳(愚かさを示している)と合わせて、地獄の審判(絵画の右下の角)に描いた。チェゼーナは教皇へ不満を訴えたが、ローマ教皇は「チェゼーナの支配は地獄まではないため、問題はない」と応えた。

ブラケの加筆

何年にも続く論争は、1564年にトレントの評議会の会衆によって”卑猥なもの”を覆い隠すべきと結論付けられた。布で覆われた絵画を描く仕事は、いわゆる「ブラゲ(ズボン)」といわれ、そのことから「ブラゲットン」として知られることになったダニエル・ダ・ヴォルテッラへ託された。

しかし、ダニエルがブラゲを書き終えた後も、何世紀にも渡って書き加えることになった。

詳細な構図

最後の審判における伝統的な構成では「秩序の対比」が一般的となっており、調和の取れた天空の世界を地上に起こっている激動の出来事から遠ざけているが、ミケランジェロの構想では、絵画全体の配置やポーズは動揺や興奮が印象的で、天空の世界ですら「深刻な暴動、不安、混乱」が人物に投影されている。

シドニー・ジョゼフ・フリードバーグは描かれた人物の動きを「精神的な不安にさいなまれた反動による巨大な力が、無力化を引き起こした」と述べており、彼らの神との仲介役が終わりを迎えた時、おそらくいくつかの評決に対して後悔している様子であると解釈した。

キリストと聖母

作品の中央にはキリストがおり、地獄の方を見下ろしながら「最後の審判」の評決を下している。彼には髭がなく、「ヘラクレス、アポロ、ジュピターの旧式な概念が混ぜ合わされた」風貌だが、おそらくとりわけユリウス2世によってヴァチカンに持ち込まれたベルベデーレのアポロがモチーフとなっている。

また彼のポーズには、ミケランジェロ以前に描かれた《最後の審判》との類似点がある。特にミケランジェロが知っていたであろうピサのカンポサントの手を挙げるポーズは、「傷の表示」のジェスチャーの一部であり、ミケランジェロ作品にも見られるように、復活したキリストが十字架の磔による傷をあらわにしている。

キリストの左には、母親である聖母マリアが描かれている。彼女は天国側を見下ろすように頭を回しているが、そのポーズは諦めを示唆している。それは魂のために懇願するという、彼女の伝統的な役割の瞬間が現れたように見える。共にいる洗礼者ヨハネとデイシスは、初期の構成では規則的なモチーフである。習作での彼女はさらに伝統的で仲裁の姿勢であり、立ちながらキリストの方を向いて腕を伸ばすように描かれている。

聖者たち

キリストの周りには数多くの聖者や救済された魂がいる。キリストと同じくらいの大きさで左に洗礼者ヨハネ、右に天国の鍵を持ったペテロがおり、おそらく彼らはもはや必要とされなくなるので、キリストの元に戻ることを申し出ている。

数人の主要な聖者は、殉教の証拠にキリストの元に帰することを示すために現れている。かつては聖者たちがキリストのために働かなかった人々を地獄に落とすことを要求するためだと解釈されていたが、聖者たちは彼ら自身の評決に確信がなく、最後の瞬間にキリストに彼らの苦難を思い出させようしている、という他の解釈が一般的になっている。

他の有名な聖者たちにはペトロの下の聖バルトロマイがおり、彼の殉教の特性である彼自身の肌を持っている。この顔は通常、ミケランジェロの自画像であると認識されている。他の多くの聖人たちは、たとえ大きく描かれているものであっても識別は難しい。

ミケランジェロの公認の従順な伝記作家であるアスカニオ・コンディヴィは、十二使徒全員がキリストの周りに示されているが「彼は名前をつけようとしなかった。おそらくそうするのは難しかったのだろう」と言う。

魂の動きは伝統的なパターンを示している。彼らは左下の墓から生まれ、いくつかのケースでは空気中の天使達(主に翼を持たない)もしくは他の雲の上にいる人々に助けられながら昇り続け、引き上げられている。

地獄へ行く側の人々は右へ向かっているようだが、どれもそうはっきりとは示されていない。

下方中央には、魂のないゾーンがある。古典的な神話(そしてダンテ)の中で、魂をあの世に運ぶ攻撃的なカロンは、ボートによって魂を地獄の入口のそばに運び込んでいる。彼が櫂で人々を脅すところは、ダンテからそのまま拝借したモチーフだ。

地獄

キリスト教の伝統的な悪魔であるサタンは示されていないが、別の古典的な人物であるミノスが、地獄行きの人々が地獄へ入る様子を監督している。

これはダンテのインフェルノにおける、彼の役割だった。彼は一般的に教皇裁判所の人物で、ミケランジェロの批評家でもあったビアジオ・デ・チェゼーナがモチーフだということで意見が一致している。

天使

カロンの上部中央には雲にのった天使達のグループがおり、それ以外には7人のラッパを吹く者達(黙示録のように)や、天国行きと地獄行きの名前が記録された本を持っている者がいる。

彼らの右には、地獄に落ちることを悟ったばかりの大きい姿の魂が、恐怖で固まっているように見える。2人の悪魔は彼を下へと引っ張っているが、この悪魔達の右側ではいくつかの魂が引き下げられたり、上から天使によって押し下げられている。

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基本情報・編集情報

  • 画家ミケランジェロ・ブオナローティ
  • 作品名最後の審判
  • 英語名未記載
  • 分類絵画
  • 制作年1536年 - 1541年
  • 製作国イタリア
  • 所蔵バチカン宮殿システィーナ礼拝堂 (イタリア)
  • 種類フレスコ画
  • 高さ1400cm
  • 横幅1200cm
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