作品概要
《アポリネールへの敬意》は、画家のマルク・シャガールによって制作された作品。制作年は1911年から1912年で、ステデリク・ヴァン・アビー美術館に所蔵されている。

アポリネール、ギラウメ(1880年-1918年)はポーランド出身のフランス人詩人であり芸術批評家で、モンパルナス芸術家同盟の有名なメンバーであった。彼の感情的な性格と新たな芸術のスタイルに対する積極性はアーティスト達との交友関係に現れている。
彼は立体派から原始主義、未来派、超現実主義に至るまですべてを楽しんでいた。このことから、彼はアーティストでなかったのにも関わらずモンパルナスで最も人気があった人物で、パブロ・ピカソ、アンドレ・ブレトン、マルセル・デュシャン、オシップ・ザッキン、マーク・シャガール、ヘンリ・ルソーなどの重要人物達と深い交友関係があった。
アポリネールは彼の作品「ティレシアの化け物」(1917年)の解説で使用した「超現実主義」という言葉を造り、1920年代にアンドレ・ブレトンによって作られたグループに使われることとなった。1914年ドイツがフランスに戦争を宣戦布告した際アポリネールはすぐさま軍隊に入隊し、1916年に頭を負傷し除隊した後、怪我の療養中にスペイン風邪により1918年死した。
シャガールは1911年にパリへ移住し、翌年からモンパルナスの「ラ・リュッシュ」(蜂の巣)と呼ばれる集合住宅兼アトリエに住み、レジェ、モディリアーニ、スーティン、またアポリネールやアンドレ・サルモンらの詩人など、多くの芸術家との交流をはじめる。その当時のシャガールの手法は、パリで隆盛していた「キュビスム」を取り入れながら、独自の幻想的な世界を開拓しており、詩人アポリネールの高い評価を得た。
象徴主義的作品として
「アポリネールへの敬意」はシャガールが第一の故郷、ロシアを離れ、パリへ移住したころのとても象徴主義的な作品である。色彩的には赤、白、黒、緑、青、黄色で構成されている。中央に描かれた男と女は女性が林檎を手にしていることから、アダムとイヴであることがわかる。アダムとイブは宗教の表象であり、生命の象徴だ。2つの文字を囲む円は、永遠に刻み続けられる時間の象徴。アダムとイヴが時計の仕組みであり、時計の針となり、時計が2人の運命の時を刻み続ける。アダムとイヴからの罪を負う人類。この絵のなかには、天国はなく、罪の象徴である林檎だけが存在するのだ。
左下に描かれた矢に打ち抜かれたハートにより、当時親交の深かった 詩人ギヨーム・アポリネール、リチオット・カヌード(イタリアの映画理論家)、ジョルジュ・レヴィン(ハワース・ヴァルデン)としても知られる)(ドイツの表現主義画家)、ブレス・センドラス(スイスの小説家であり詩人)に対する愛情がみてとれる。
4隅には4大元素の象徴。左上の太陽の火、右の青の水、茶色と緑の地球(土)が表示され、左下には空気(風)が雲で象徴されている。4つの要素、そして アダムとイヴが 世界の創造を象徴しているともいえる。時計の12が表示される場所にはシャガール自身の名前も。全体は幾本かの直線的ラインにより分割されているような印象を受ける。キュービズムとオーフィズムを実験的に融合させている「アポリネールへの敬意」は、不協和音の愉しみを運んできてくれる。
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