作品概要
《ヴィテプスクの上で》は、画家のマルク・シャガールによって制作された作品。制作年は1914年から1914年。

本作のモチーフは年老いた乞食である。雪景色のヴィテプスクの建物の屋根の上に、唐突に大きな乞食が描かれている。
背には袋を背負い、空からやってきたとばかりに不可思議な場所で浮かんでいる。そのさまは、まるで乞食が夢の中の別世界の人物であるかのようである。
家から家へ、物乞いに歩き回る乞食の様子を表す「彼は家々を歩いて回る」というイディッシュ語があるのだが、この絵はまさにその景色をとらまえているようだ。
パリでの制作
彼は本作の制作のほとんどをパリで行った。故郷ロシアからはるか遠く、家族やのちの妻となるベラ・ローゼンフェルドと離れて暮らす時間は、シャガールの心に郷愁の念を募らせっていったに違いない。
のちにパリで暮らしたこの時期のことを思い返した彼は、パリを「第2のヴィテプスク」と呼んでいる。遠く離れた地を故郷と重ね合わせたのは、あるいはホームシックのあらわれだったのかも知れない。
シャガールならではの不思議な魅力
本作《ヴィテプスクの上で》や《空飛ぶ荷馬車(1913年)》では、まるで魔法の国のような不思議な出来事が、ごく普通の、例えば牛の乳しぼりといった日常の中で起きている。彼にしかできないであろうこうした作風は、見る人を釘付けにしてしまう不思議な魅力に満ちている。
本作を見てのとおり、シャガールは、決して感情的になりすぎたり、だからと言って問題を軽く見過ごしたりはせず、忠実にキャンバスに描きとった。
まさに、人間の強さやしなやかさに着眼し、その心の機微を見事に表現したたぐいまれな画家である。
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