作品概要
《妻に嘲笑されるヨブ》は、画家のジョルジュ・ド・ラ・トゥールによって制作された作品。制作年は1630年から不明年で、県立エピナル美術館に所蔵されている。

ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの作風には、「悔い改めるマグダラのマリア」などのような暗く神秘的なものから、より静謐な雰囲気を描くものへの変化が見られる。その過渡期の作品と言えるのが、1630年代に描かれたと考えられている「蚤をとる女」と本作であろう。
ヨブは旧約聖書の「ヨブ記」の主人公である。ヨブは神を敬う敬虔な義人であったが、あるときその忠誠心を試そうと神に持ち掛けたサタンは、神の許しを得て彼の全財産を奪う。その後もヨブは子供たちを失う、全身が腫物に覆われる皮膚病になるという苦しみを味わい、妻には「神をのろって死になさい」と言われるほどの悲惨な状態になった。忠誠を保ち続けたヨブはその後回復し、財産も二倍になり子供にも恵まれるなどの幸福を享受することになる。
登場人物は二人しかいないが、「金の支払い」などと同じような光の揺らめきがある。しかし、この主題の絵画は珍しい。ラ・トゥールは、ヨブの苦しみの中に特別なパトス(悲哀)を描き込んだ。不幸なヨブと不機嫌な妻の対話を集中的に描くことで、妻に苦しめられる夫というあまり見られない主題を鑑賞者に垣間見させている。妻の夫へのあざけりは、病に苦しむヨブを恐ろしいほどの力で襲う。こうした二人の人間の複雑な関係を描くということは、当時のフランス絵画ではまったく稀なことであった。鑑賞者はラ・トゥールの人間観察力に感嘆せざるを得ない。ろうそくの明かりによって場面を描き出すという技術力は、彼の多大な能力の一部に過ぎない。
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