作品概要
《ダイヤのエースを持ついかさま師》は、画家のジョルジュ・ド・ラ・トゥールによって制作された作品。制作年は1635年から不明年で、ルーヴル美術館に所蔵されている。

本作は同じ構図のものが2種類ある。ルーヴル美術館所蔵の作品は、いかさま師の持つトランプがダイヤのエースであり、アメリカのキンベル美術館にある作品はクラブのエースとなっている。
得意げないかさま師
ポーカーに興じている人々を描いているが、一見して正面の女性の企みを含んだ横目に惹きつけられる作品である。タイトル通り、「いかさま」が行われる瞬間を描いている。
左端にいるいかさま師は、鑑賞者を意識するようにベルトに隠し持ったカードに手を伸ばし、得意気とも見える表情でこちらをちらりと見やっている。黄色い帽子の侍女もこのいかさまに一枚噛んでおり、中央の女性に合図を送っているようである。
カモとなった男性
この作品におけるカモは、右端の若い男性である。手札に集中しているため、これから行われるいかさま行為はもちろん、他の3人の明らかに不審な表情や態度には全く気づいていない。
鑑賞者はなすすべなく、いかさまの被害者となるべき男性の運命を哀れみ、あるいは笑うことしかできない。
教訓
しかし、表情や動き、帽子の色(黄色は裏切りを示すユダの色である)などを用いながら描かれている本作品の悪意ある不正行為は、それを見る鑑賞者に一種のユーモアを与えてはいるが、いかさま師の意味ありげな視線からは、ある種の警告のようなものも感じられる。
すなわち、このような悪意はまったく気づかぬうちにすぐそばまで近寄って来るものだ、という教訓めいた警告である。もちろん、そんなものを抜きにしてもこの作品が一度見たら忘れがたい印象をもたらすことに変わりはない。
「クラブのエース」との関連
背後に慣れたような手つきでダイヤのカードを隠し持っている手前の男性は、楽しみや余裕を感じさせる雰囲気がある。
この3人がグループで複数回同じ男性を騙していたのかはわからないが、もう一つの《クラブのエースを持ったいかさま師》でも、服装やカードの中味は違うものの、全く同じ人物と構図で表現されていることに意味を見出したくなる。
カラヴァッジョの影響
本作は1598年にカラヴァッジョが描いた「いかさま師」に影響されていると考えられるが、構図や人物の表情や動き、何より作品に描かれた「悪意」と、それに気づかぬ被害者の孤立は、こちらの作品のほうがより際立っている。
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