作品概要
《エラスムスの肖像》は、画家のハンス・ホルバインによって制作された作品。制作年は1523年から1523年で、ロンドン、ナショナル・ギャラリーに所蔵されている。

デジデリウス・エラスムスまたはロッテルダムのエラスムス(1466-1536)は、オランダ出身の人文主義者、神学者である。ホルバインはこのエラスムスの肖像画を数度描いており、その作品は後に多くの模写を生むことになった。ホルバイン本人による作品とその他の模写を見分けるのは困難である。ホルバインの肖像画はその模写がヨーロッパ全体に広まることにより、画家の名声を高めることに寄与した。ホルバインは後にイングランドへ渡る際、エラスムスからトマス・モアに宛てた自身の推薦状を手にしていた。
ホルバインが住み、かつその工房のあったバーゼルにエラスムスが移り住んだのは、1521年のことである。ヨーロッパ各地の学者とやりとりをしていたエラスムスは、庇護者に送る自身の肖像画を必要としていた。エラスムスは絵画の崇拝者ではなかったが、その力をよく理解していたのだ。クエンティン・マサイスは1517年に若きエラスムスが執筆する姿を描き、1519年には横顔の肖像画でメダルを制作している。アルブレヒト・デューラーも1526年にエラスムスの肖像画を描いている。エラスムスは1524年、自身の著作において「最近私はフランスへ自分の肖像画を送った。非常に腕のいい画家による肖像画である」と記している。ホルバインのことを指しているのだろう。
ホルバインが描いたエラスムスの肖像には主に三つのバージョンがあるが、ナショナル・ギャラリー所蔵の1523年に描かれたものがもっとも有名である。同じく1523年に横顔の肖像画を描いており、こちらはルーヴル美術館にある。これと非常に似た作品が、バーゼル美術館にも所蔵されている。これらの作品はさまざまなバージョンが生産され、少なくとも部分的にはホルバインが関わっており、監修していた。それらの作品ではポーズや顔は同じだが、服や背景が変わる。これはホルバインの丹念な描写の訓練になっただろうし、モデルがおらずとも肖像画を作ることができた。ルーヴル美術館には、ナショナル・ギャラリーバージョンの右手の素描が残されている。
ナショナル・ギャラリーバージョンでは、モデル後方の棚に本やフラスコが置かれており、モデルの学者という性格を表している。
こちらで、ぜひ本作品の感想やエピソードを教えてください。作品に関する質問もお気軽にどうぞ。