作品概要
《梨の聖母》は、画家のアルブレヒト・デューラーによって制作された作品。制作年は1512年で、美術史美術館に所蔵されている。

「聖母子」というテーマは、アルブレヒト・デューラーのお気に入りの主題であり、またパトロンにも人気が高かった。この絵もそのような作品の一つである。
聖母マリアとキリスト
ここでは聖母マリアは豊かな青いローブを着て、暗い背景に浮かび上がっている。彼女は息子を愛情深く見下ろしているのでベールがその頭にくっつきそうになっている。彼女の大きく表された指は、キリストの小さな体つきと対照をなしている。
キリストは、母親が切ってくれた梨のひとかけらを持っていて、もうその梨を一口食べたところである。ちょうど生え始めた上の歯が2つ、唇の間から小さく見えている。
表現と技法
聖母マリアは、カールした髪、ベール、リボンによって縁取られ、微笑する「繊細な表現」で描かれているのに対し、キリストはヘラクレスのような、がっしりとした体つきで表現されている。
このように、お互いに異なる表現技法が一つの絵の中で共存している理由は、今でも議論されている。例えばフィレンツェのウフィッツィ美術館にある『梨の聖母』も同じような表現で描かれている。しかしこれに対する結論は出ていない。同様に、キリストの持つ梨の意味も明らかではない。
時代背景
ルネサンス期のヴェネチア派の絵画において、聖母子のアトリビュート(絵画の中で人物を特定する手がかりとなる持ち物やモチーフ)として梨が描かれることは稀ではなかったし、イタリア全体においてもそうであった。そこでは梨の味の甘さが心の甘美さにたとえられ、聖ボナベントゥーラによればすなわち知恵の賜物であるという。
この『梨の聖母』のようにキリストが一口噛んだ歯型が表される例は他にないが、おそらくは他の梨とともに描かれた聖母子像と同じく知恵とその甘美さがこの作品の主要なテーマであるように思われる。
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