作品概要
《博士たちと議論するキリスト》は、画家のアルブレヒト・デューラーによって制作された作品。制作年は1506年で、ティッセン・ボルネミッサ美術館に所蔵されている。

アルブレヒト・デューラーは1505年から1506年までのイタリア滞在中の『ロザリオの祝祭』(プラハ国立絵画館)と制作と同じ頃、『博士たちと議論するキリスト』をも描いた。このテーマは『新約聖書』「ルカによる福音書」第2章第41-52節にあるエピソードで、まだ12歳のキリストが両親であるヨセフとマリアに連れられてイェルサレムに行き、行方がわからなくなった。両親が探すと、キリストは神殿でユダヤの学者たちと神学に関する高度な議論を交わしているのが見つかった。キリストの早熟さと神の子としての圧倒的な知恵を示すエピソードであり、キリストが最初に説教を行ったという点でもキリスト教史上重要な出来事である。
デューラーはユダヤ教の神殿を背景とする伝統的な描き方に従わず、キリストを囲む人物らをクローズアップする方法を採った。キリストの若々しい手と学者の皺の寄った手という中央の目をひく対比はデューラーの技巧の見せ所である。
左側の博士が持つ本にはしおりが挟まれており、そこには「この絵は5日で描いた」という意味の言葉が記されている。これは『ロザリオの祝祭』が5ヶ月間で完成したのと対比されている。また、この絵は『ロザリオの祝祭』と比べて非常に小さなサイズであるだけでなく、筆致も入念というよりは大胆で、幅広で流れるようなストロークで描かれている。5日間で描かれたというのはおそらく誇張で、デューラーはこの絵のための入念な準備素描を残している。この絵の模写のうち2枚には、上記のしおりに「ローマにおいて」という文字があることから、デューラーは1506年にローマを訪れたと推測される。この『博士たちと議論するキリスト』が現在の所蔵先であるティッセン・ボルネミッサ美術館に入る前にはローマのバルベリーニ宮殿に所蔵されていたこともその推測を補強する。
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