作品概要
《平和・水葬》は、画家のウィリアム・ターナーによって制作された作品。制作年は1842年から1842年で、テート・ギャラリー、オンタリオ州立美術館に所蔵されている。

ミーに所属し、ライバルまたは親友関係にあった友人で、画家のデイヴィッド・ウィルキーの突然の死去である。ウィルキーは、オリエンタル号での船旅の途中であったが、海上事故のために急死し、ジブラルタル沖へ水葬されたのである。
この画は、同じく友人で会ったジョージ・ジョーンズの素描をもとにターナーが書き上げた作品であり、突然友人であり、ライバルを失った悲しみや、ウィルキーに対する哀悼の意が込められている。本作品の発表はウィルキーの死後1年後、1842年に発表されている。
本作品の特徴は、全体に青、黒といった寒色が用いられていることである。この黒色遣いは、ターナーの別の作品である、「戦争」と対をなす表現となっている。「戦争」においては、赤や黄色といった鮮やかな色彩が使われているのである。
また、色彩のみならず、「戦争」と「平和」という主題の対比もコンセプトにあり、史実に基づいているかどうかということよりも、色彩とトーンの対比に主眼を置いている。この2作品は、仕上げ作業が行われていない(ように見える)という点においても批評の対象となる。
本作品の中央部には、真っ黒な絵具で煙に巻かれる汽船の様子が描かれており、その黒い影は水面にまで及んでいる。また、船体を分断するように赤黄色い光がまっすぐに伸び、その部分だけが一筋、水面を介して画面手前まで延びている。
汽船自体を覆い隠してしまうほどのこの黒色は、友人を失った悲しみを表現していることはもとより、晩年期を迎えた画家自身の死への恐怖を投影したものでもあっただろう。
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