作品概要
《果物とアポロンの胸像》は、画家のジョルジュ・デ・キリコによって制作された作品。制作年はNA年から1973年で、ジョルジュとイザ・デ・キリコ財団に所蔵されている。

《果物とアポロンの胸像》は、イタリア人の画家ジョルジュ・デ・キリコによる絵画である。
晩年の絵画
デ・キリコは1979年11月20日にローマで亡くなるが、これはその5年前、1973年に描かれた最晩年の作品である。作品に描かれているのはギリシャ神話に登場するアポロンであり、ゼウスとレト女神の子である。アポロンは絶世の美男子で弓矢と竪琴をたずさえ、予言とともに音楽、医術、牧畜なども司る神である。
イタリア人の両親のもとにギリシャで生まれたキリコは、生涯にわたってギリシャ彫刻をオブジェとして絵を描き続けた。しかし「形而上絵画」のひと気のない不気味な風景に描かれていた緑がかった、昼とも夜とも判然としない空と違って、晩年のデ・キリコの描く空は地中海を思わせるように青く、明るい。
右側に描かれたアポロンの胸像は、左側の窓を振り返るように体をこちらに向けている。バランスの崩れた遠近法で、窓は海よりもなぜか空の方向を向いている。かつての不安定な、観るものを不安に陥れた遠近法のずれと違い、ここでは空も海も明るく、窓はむしろ空にむかって晴れ晴れと開いているかのようだ。
ヴァニタスの踏襲
窓枠に置かれているのは、パイナップル、ぶどう、りんご、バナナ、卵などだ。「ヴァニタス」と言われる静物画の、生命の無常を描く西洋絵画の伝統を踏襲して、ぶどうは窓枠の端に置かれ、今にも落ちそうになっている。
かつての1910年代のキリコの画面がほどんと不気味な、制御不可能な黒い影に覆われていたのに対し、ここでは何もかもが色と生命を持ち、明るい。《モンパルナス駅》など繰り返し描かれていたバナナは、デ・キリコの著作によると「幸福」や「官能」を意味するというが、ここでは中心の位置をパイナップルに譲り、むしろ密やかに左側に卵とともにある。
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