作品概要
《白の楕円 (黒い線)》は、画家のワシリー・カンディンスキーによって制作された作品。制作年は1919年から1919年で、トレチャコフ美術館に所蔵されている。

制作された背景
《白の楕円(黒い線)》は、1917年に起こったロシアの10月革命以降、絵画制作を中断していたカンディンスキーが再び活動を始めたと言われる1919年に描かれている。
カンディンスキーは、1918年にロシアに帰国している。その後1921年にロシアを去るまでの間、モスクワ大学の教授を務めたり、教育人民委員部造形芸術局(イゾナルコムプロス)のメンバーになるなど、美術理論家としてロシアにおける新しい芸術の可能性を模索していた。このロシア時代は、自身の作品においても実験的な表現の試みが多く見られる時期であると言われている。本作品も作品内に楕円の「キャンバス」を描くという、カンディンスキーの実験的な表現を見ることができる。
描写
この作品は、黒の枠の中に楕円のキャンバスを描くような形態で描かれている。楕円はキャンバスであると当時に、作品内の形状や色の一部でもある。楕円のキャンバスの中には、中心と右上にそれぞれ白と茶色の楕円が同じ形状で描かれている。他の形状達も、白の楕円を背景にし、さまざまに配置されることで作品を構成している。
右下から左上に、斧状の太く黒い線が斜めに伸びている。その線と垂直に交わる方向に、多くの形状が広がっている。これらが全体の均衡を保ち、楕円の中で色や形状が開いたような躍動を見せている。
この作品は図形的な表現を基盤として描かれているが、それらは多くの有機的、風景的な線や形状とバランスをとるように描かれている。本作はこの描写から、図形的形状による表現に重きを置いた1920年以降の作品とも、具象を取り払った抽象の中に自身を表現した1910代までの作品とも異なる、カンディンスキーの絵画表現の分岐点が見える作品であると言われている。
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