作品概要
《素早く動いている静物》は、画家のサルバドール・ダリによって制作された作品。制作年は1956年から1956年で、ダリ美術館(フロリダ)に所蔵されている。

『素早く動いている静物』を制作するころにはダリはシュルレアリスム運動から離れ、ダリが名付けたところの「原子核的神秘主義』に没頭していた。当時出てきたばかりの物理学理論や分子生物学など、科学的な手法で宗教の神秘性を説明できると信じ、芸術に精神性をよみがえらせたいという強い意欲を持っていたのである。
本作品において、まずダリはあらゆる物質が固定されたように見える世界にあっても、それぞれが亜原子レベルで一定の運動をしている状態を表現しようと試みた。
海に面した一室。テーブルの上にグラスやフルーツスタンド、皿、ワインボトルなどの食器、ナイフ、カリフラワーや洋ナシなどの青果、羽を広げたツバメなど写実主義に基づいた古典的な静物画の要素が見える。しかしその光景はいわゆる静物画とは大きく異なる。それらの要素が動いているのだ。正確には動いているのを一時停止した瞬間を切り取ったような光景なのである。タイトルの『素早く動いている静物』はこの状態を示している。
次にダリが重要視したのらせん構造の表現である。ダリはらせん構造を自然界で最も完ぺきな形状と考え、宇宙の秩序を表すシンボルとして使用した。本作品でも、バルコニーの柵、ねじれたフルーツ・スタンド、カリフラワーなど、いたる所にらせん構造を持つ要素が見られる。本作品の制作中、ダリは遺伝子の二重らせん構造が発見されたことを知った感激し、「科学の歴史上初めて、物理学が神の存在を証明した」と述べた。
これらのモチーフは勝手に運動しているわけでなく、黄金分割の数学的な座標軸上に置かれ、絵画空間を厳密に構成している。
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