作品概要
《降りてくる夜の影》は、画家のサルバドール・ダリによって制作された作品。制作年は1931年から1931年で、ダリ美術館、フロリダに所蔵されている。

『降りてくる夜の影』は1931年、ガラとともに移り住んだカダケスの漁村ポルト・リガトで制作された。
作品の前景を占める大な黒い影と背景の輝くビーチが対照的だ。長く伸びた影は夜の訪れを告げ、人や木など生命感じさせるものがない無機的な空間が不安感をあおる。ダリや多くのシュルレアリスムアーティスト達に敬愛されたジョルジュ・デ・キリコの作品に多く見られる予言的、ドラマチックな緊張感がある。
しかしダリはシュルレアリスムの先駆者の追憶だけでなく、より個人的な体験を画面上に再構成させている。
前景のグランドピアノ形の大きな黒い影は画家ラモン・ピショット家との思い出に結び付く。幼少期のダリは父の友人であったピショットのカダケスの別荘を幾度となく訪れている。ピショット家の人々は室内のグランドピアノをビーチに運び出して演奏することが度々あった。同様に白い小石の海岸が続くコンフィテーラ海岸を想起させる白い物体を画面中央に、また故郷アンポルダ地方で目にしたノルフェオ岬の岸壁のイメージである岩々が配されている。
一方画面右側には水差しやコップなどの生活用品が白い布で隠されている。ダダイスム、シュルレアリストのアーティストであるマン・レイの『イジール・デュカスの謎』(1920)を想起させる、この物体が連想させるものは何だろうか。この時期、のちにダリの妻となるガラが大病を患い手術を受けた。運命の女性と心酔したガラを襲った病にダリが衝撃を不安に取りつかれたのは想像に難くない。
理想的な過去と不安に苛まされる現在の対立を描き出したのが本作品である。
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