作品概要
《学者に囲まれたキリスト・キリストの生涯》は、画家のアントニオ・ヴァッシラッキによって制作された作品。制作年は1592年から?年で、サン・ピエトロ教会に所蔵されている。

題材
この作品は、ルカによる福音書2章41~52節に描写されているキリストが学者と議論する場面を題材にしている。
12歳のキリストはマリアとジョゼフ、親戚や友人などのグループに連れられて、慣例に従ってエルサレムへの巡礼を行なっていた。出発の日、キリストは神殿にいつまでも居残っていたが、マリアとジョゼフはキリストがグループの中にいると思い込んでいた。帰宅の途につき一日が経ち、マリアたちはキリストがいないことに気づいた。そしてエルサレムに戻り、3日後にキリストを見つけた。彼は神殿におり、年配者たちと議論を交わしているところであった。その年配者たちはキリストの学習能力、しかも彼の幼い年にして秀でていることに驚いた。マリアが注意をすると、キリストは「どうやって僕を探したの?父の家にいるはずだと知らなかったの?」と答えた。
芸術における「キリストの生涯」について
キリスト教芸術において、一連の物語としての《キリストの生涯》は、主イエスの地上での生涯で起こった出来事を語る様々な題材で構成されている。『栄光のキリスト(王座についた荘厳な姿で描かれる)』などと言った、物語性のない信仰対象として主の永遠の命を描いた他の多くの題材とは区別されている。
しばしば一連の作品としてまとめられ、本のイラストや壁画まで様々な手法で創作される。そして物語の形をとるテーマのほとんどは、しばしば単独で作品のテーマとなることもある。
もっとも一般的には、キリストの誕生と子供時代、十字架への磔と復活へと至るキリストの受難をテーマにしてまとめられる。ほとんどは、このうちの一群のみを作品とするが、聖マリアの生涯と合わせる作品もある。
キリストが師として活動していた頃(受難の前の日まで)をテーマとした作品は、中世では比較的少ない。ルネッサンス時代から、またプロテスタントのアートにおいてはテーマの数が増えたものの一連の絵画作品が珍しいものとなり、印刷物、特に本の挿画として一般的なものとなった。
この作品では、ルカによる福音書第2章に描写されている。
作者について
アントニオ・ヴァッシラッキは、パオロ・ヴェロネーゼの下で見習いをした後、ドメニコ・ティントレットの工房に所属することとなった。ドメニコは数多くの依頼を受けていたヤコポの息子である。1578年から1582年の間、ヴァッシラッキはヴェニスのドゥカーレ宮殿の大評議会の間の装飾を請け負った。ドメニコとヴァッシラッキは商人学校の宿の壁と天井の装飾をし、サンタ・カテリーナ教会に大きなキャンバス画を6枚、サン・ジョルジオ・マッジョーレ教会に3枚の絵を納めた。その後、すぐにペルージャからの委託を受けた。ペルージャでの仕事の契約書はベネツィア語で書かれ、1592年5月5日に締結している。最初のキャンバス画は正面玄関の裏に掲げるために作られた巨大なもので、横11メートル、縦8メートルに及び、ベネディクト会の勝利を描いている。巨大な家系図の形から着想を得たこの絵はおそらく、同じ時期にベネディクト会の家族について研究をするため雇われていたアルノルド・ヴィオンが1595年に出版した「Lignum vitae 生命の樹」のプロジェクトの下に行われたものである。この作品が評価され、教会の身廊の壁に10枚の大きなキャンバス画を制作することになった。旧約聖書のキリストの生涯の中でも最初のエピソードが描かれている。
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