作品概要
《木に繋がれた雄鹿》は、画家のジュリオ・カンパニョーラによって制作された作品。制作年は1510?年から1515?年で、大英博物館に所蔵されている。

作品
木に鎖で繋がれ、座る雄鹿の版画。スティップル法を使用し、描かれている。左上には大文字で、Iulius Campagnola fと署名がある。大英博物館に所蔵されている版は、4枚の有名なプリントの一枚である。大英博物館の書籍『大英博物館の版画複製ー」新シリーズ(書記イタリア版画)』で、モノクロで刷られ、1886年に出版された。
時代背景
アルカディア、理想的田園。自然と調和し、素朴さの中に生きる羊飼いたちが生きる詩的な地。
それが初めてベネチア絵画において表現されたのは、16世紀初めの20年間のことだ。この時期、ベネチアの政治状況は緊張に満ちていたにも関わらず、その正反対の田園的情景は、人文主義の文化や書籍出版業界に平和な世界観をもたらした。
技法
カンパニョーラは、銅版画に濃淡のグラデーションをつけるため、スティップル法(点刻彫版法)を編み出した。それまでは基本的に線描が使われてきたが、多数の細かい点や線を用いることで、グラデーションの移り変わりを滑らかに表現できるようになり、銅版画制作における重要な発明となった。
作者
カンパニョーラは、ベネチアの画家、特にジョルジョーネが描いた風景に近いものを版画で表していたが、その作品は単に風景を思い起こさせるだけではない。様々な分野を学んだカンパニョーラは、細密画などの美術だけでなく、音楽(彼自身、リュート奏者で歌手であった)や、その時代の人文学的な考え方(文学、詩、ラテン語、ギリシャ語、ヘブライ語)にも精通していた。
生まれた地パドヴァや育った地ヴェニスで、ヒューマニストの集まりによく顔を出しており、積極的に人文学に関わり、アルカディア(理想的田園)というテーマは、他の芸術家たちが作り出したモチーフの真似や知識人たちに好まれるような見せかけであったと言うよりも、新しい何かを創作するベースであった。
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