作品概要
《切り取られた十字架像》は、画家のロレンツォ・モナコによって制作された作品。制作年は1410?年で、ブダペスト国立西洋美術館に所蔵されている。

中世の時代に画家が依頼人に対し、彫刻作品ではなく、イエス・キリストの十字架像の絵画を購入するよう誘導するには、多くの場合、画家達の財政的困難な状況が関係していた。当時の状況を考えると、画家にとって、彫刻作品とできる限り同等の効果が得られるように、作品に最大限の可能性を表すことが重要であった。15世紀初頭、フィレンツェの巨匠と言われる何名かが、磔にされたキリストの体の周りに切り込みをいれることで、壁ではなく祭壇の上部、天井から吊り下げられることで、絵に描かれた人物であっても、教会の狭い内部であっても錯覚的効果をうませ、絵画として彫刻と同等の効果を表すことに成功した。
今作品で、最も重要なイタリアの後期国際ゴシック様式の主導者のひとりであるロレンツォは、長身でスリムな男性の体を、そのリズミカルな曲線の起伏のリズムを途中で急に中断することや不調和を起こすことなく描いている。その体の立体感の表現において、画家は慎重に自然主義的な要素を避けている。彼が描いたキリストは、ジオットやマサッチオが描くようなたくましいヒーローではなく、か弱いと言ってもいいような体つきで、十字架の上でまどろんでいるようにも見える。画家の先行する時代にあった、徹底的なゴシック様式から明らかに影響を受けている。さらに、この作品の中でロレンツォは繊細な色調の使用を試しており、マソリーノの作品の最終形態を思い起こさせるような柔らかな表現方法となっている。
画家の他の作品である《聖母と福音伝道者聖ヨハネとの十字架刑》で特徴的であったのは、キリスト自身よりも、彼の下で膝をついている聖母と聖ヨハネの体が大きく描かれてる点であった。(バーナード・ベレンソンによると、彼らが膝をついているのは、そうしないと作品内におさめられないといった理由ではなく、よりドラマティックな効果を構図としてうませるためとある。)その作品の本来の主題としては極刑の証言者ではなく、彼らが極刑に対して黙想している様子を描くことで、画家自身の「キリストの極刑」という主題に対する宗教的情熱を表現しているのである。「極刑」自体は、他の要素とは離れて描かれた岩山の上に描かれており、作品内で独立している。また前述したように、聖母と聖ヨハネと比べると大きさ的に小さく描かれている点でも、今作品の《切り抜かれた十字架像》を思い起こさせる内容となっている。なぜなら、これらの特徴により、作品の超常的で信心深いメッセージが強調されているからだ。
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