作品概要
《モーゼ》は、画家のロレンツォ・モナコによって制作された作品。制作年は1408年から1410年で、メトロポリタン美術館に所蔵されている。

「後期の中世においてもっとも魅力的な絵画のひとつ」、と1932年にバーナード・ベレンソンがコメントした作品が、ロレンツォ・モナコが4人の聖人をそれぞれ個別に描いたもののひとつであり、メトロポリタン美術館が近年購入し所蔵している。玉座にある四人の聖人を美しく描いたこのシリーズは、後期ゴシックのイタリア絵画というジャンルにおいて、今世紀初頭から現在において、メトロポリタン美術館が購入したものの中で最も重要な作品に値すると思われる。これらの作品は、15世紀初頭のフィレンツェの代表的な画家であったロレンツォのものの中でも非常に保存状態の良いものである。メトロポリタン美術館がこれらを所蔵する権利を得たことはとても幸運なことである。この時代の作品がこのような良い保存状態にある事自体がとても稀なのである。
四人の旧約聖書の聖人達は、それぞれ特徴的な象徴物を持っていて、修辞学的なポーズをとっている。モーゼは十戒が書かれた石版を持ち、アブラハムはキリストのイサクの燔祭、キリストの直属の子孫と考えられているダビデはシターンを抱えていて、ノアは教会を形どった方舟を持っている。
燃えるようなモーゼの瞳の奥には、石の板(十戒が記された2枚の石)を砕き、金の子牛を破壊した聖人の怒りがうかがえる。彼の固く結ばれた口元からは、断固とした思いと固い決意が表されている。そして彼の姿勢からは、気高さと自信を感じ取ることができる。選ばれし人々の救世主として、玉座に腰掛け、思い石の板を持っている。白くなった髪は、浅黒く精悍な顔の前で渦巻くようになっていて、その様子から風の吹きすさぶマウント・サイナイ(南シナイ半島の山)の上にいる設定である可能性もある。同画家の《ノア》とは異なり、4人の聖人を描いた作品の中では今作品が一番力強く、その姿はもはや神の教えに耳を傾けるよう、見るものを脅しているようにも見える。
これらの特徴的なそれぞれの象徴物はドナテッロとギベルティの彫刻にある学者達を思い起こさせる。これらはそれぞれ単作なのか、2つで1作品なのか、祭壇画の1つなのか、それぞれ別の目的があったのか?いまだ未確定である。
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