作品概要
《悲しみの男》は、画家のロレンツォ・モナコによって制作された作品。制作年は1415年から1417年。

《悲しみの男》、はフィレンツェのトレチェント(時代)、15世紀初頭のプレデッラ絵画において一般的に使用されていた主題である。この主題は多くの場合は、《キリストの受難》のシーンと対であった。しかし、今作品が比較的大きなサイズのパネル画であることから、これがより大きな集合作品の一部として描かれたものではなく、個人的な進行のための作品として独立したものであることがわかる。
体に極刑の跡が残っているキリストが《悲しみの男》として描かれているこの作品は、彼の苦しみが瞑想の焦点となる中世において、得に個人の信仰においてとても重要であった。この作品内のキリストは、生者であるが同時に死者でもある。その死から蘇った姿は、腰から上が描かれており、背景には十字架を表す黒い帯がひかれている。この作品はおそらく4辺に切り取られていて、聖櫃のドアであった可能性があり、切り取られている部分は鍵穴を排除する必要があったかもしれないと考えられている。今でも残っている穴もいくつか見られる。その代わりに小さな、持ち運び可能な祭壇画、またはひとつの多翼祭壇画であったと思われる。
ロレンツォの薄暗く、ほぼ白黒に近い色相は主題に沿ったものである。キリストの緋色の傷とピンクの大理石の墓にしか色は使用されていない。彼の顔と髪あたりの筆使いは特に美しく繊細で、それが顕著なのが薄い顎髭である。精密に形作られ、色塗られた体と、強い後光と黄金の背景にあるレリーフアーチは全く対照的である。キリストの顔と「金属のような」後光の対比は、初期ビザンチン芸術を本当に彷彿させる。角度をつけた墓と強調するように平坦に描かれた黒の十字架が並列していることがまたこの作品の素晴らしいところである。
修道士として、ロレンツォは非宗教的な情報書類、例えば納税記録等をいくつか残している。それにより私達は彼の作品が描かれた年を正確に把握することができた。今作品と同作者の他の作品にはいくつかの共通点があり、例えば1404年の《情熱の象徴とピエタ》には今作品のキリストと同じように、はと胸で、通常より小さな頭のキリストが描かれている。
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