作品概要
《アルルの競技場の観衆》は、画家のフィンセント・ファン・ゴッホによって制作された作品。制作年は1888年から1888年で、エルミタージュ美術館に所蔵されている。

1888年12月にアルルで描かれた作品である。ゴッホは絵画を作成する上で、目で見たモチーフを描くという点において、アルルで共に風景画を描いたゴーギャンとは対照的である。
ゴーギャンは風景画を描くに際して、必ずしも目に映るモチーフよりも、心象に映ったモチーフを描くことに情熱を注いだ。絵画に心象描写を表現する点では二人とも感化し合いながら、心象を描写する方法が対照的だった。ゴッホとゴーギャンは1888年10月からアルルで共同生活をしながら、しばし芸術論上の口論をし、ゴッホは自らの絵画の理想を友と共有し得ないことに心身を消耗していった。
「アルルの競技場の観衆」では、モチーフに向き会うゴッホの目にした対象を描く姿勢が端的に表れている。ゴッホが絶大な影響を受けた印象派は、しばしば、写実描写の対局として評されるが、印象派画家たちモチーフを写実的に描こうとした。彼らが当時の芸術アカデミーの絵画と異なる点は、写実をキャンバスに表現する上で、変わりゆく光と影の色彩に着目したことであった。そして、画家として写実に向き会うゴッホは、印象派画家たちと同様に光と影の描く色彩に着目していたことが、この作品にも読み取れる。
19世紀後半のフランスでは、人々の生活が著しく変革していた。当時のフランスの都市では、人々は時間に従って労働し、休日には余暇を過ごす生活が始まっていた。群衆は大通りを歩き、公園を巡り、休日の公共の場や夜の飲み屋が栄えた。画家たちは、群衆を俯瞰して見るという、これまで経験しなかった風景を発見し、描き始めていた。
18世紀以前の絵画で、余暇の群衆が描かれることはない。農村の労働者をモチーフに描き始めたゴッホにとっても、フランスの都市の人々の生活の変容に驚いたに違いない。
「アルルの競技場観衆」は、余暇を楽しむ紳士や淑女たち、そして子どもたちまでもが描かれている。都市の生活を疎んだゴッホにとって、数少ないモチーフながら、印象派画家たちの影響を伺える作品となっている。
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