作品概要
《泉》は、画家のマルセル・デュシャンによって制作された作品。制作年は1917年から1917年で、フィラデルフィア美術館に所蔵されている。

《泉》は、フランス産前の美術家で20世紀の最も影響力のある芸術家でもあるマルセル・デュシャン(1887-1968)が提示したオブジェである。「現代美術の父」とも呼ばれるデュシャンの代表作にして、20世紀最大の問題作でもある。
便器が美術作品に
1917年、フランス、パリのアンデパンダン展をモデルにした独立派アーティスト協会展がニューヨークで創設された。《泉》は、リチャード・マットという名で出品された。
デュシャンは便器を買って、平らな面を底にして、置いただけである。そうすることで、便器が真っすぐ立った。そして基部の取水口のすぐ横に、R.マットと署名した。Rはフランス語のスラングで財布、そして金持ちという意味でもあるリチャードを掛けていた。マットはニューヨークに本社を構える便器製造のJ・L・マット・アイアン・ワークスを示唆している。
協会側の展示委員は不道徳だという理由で展示しなかったが、アーティスト自身が展示作品に選んだということに新たな意味が生まれていると評する批評家もいた。
レディ・メイドの代表作
《泉》のような既成の物をそのままオブジェとして掲示する〝レディ・メイト〟をデユシャンは数多く発表した。アートとは無関係の便器を作品として提示することで美術という文脈の転換を図ろうとした。既に価値あるものを崇拝するのではなく、無価値と思われているものに文脈を与えることで、既成の価値観からの脱却を試みた。
オリジナルは写真家アルフレット・スティーグリッツが撮影したあと、行方不明になった。現在はデュシャン自身が認めたレプリカが存在する。
便座を置いただけの作品がある、とYouTubeやサイトで色々取り上げられていた。確かにこれ自体を本人作り上げたわけではない。そういう点で、果たしてこれが芸術作品と言っていいのかと話題になるのだろう。しかし思うに、そういう「芸術とは何か」「そうであるものとそうでないものとの違いは何か」という根本的かつ哲学的な問いを見る人に想起させることを含めた意識と共立する作品なのかもしれない。こういう問いを含めた作品ではアンディー・ウォーホルの『Brillo Box』を思い出させる。
2022年9月13日 10:50 am, ID 56947