作品概要
《マック・セネットの想い出に、》は、画家のルネ・マグリットによって制作された作品。制作年は1936年から1937年で、ベルギー芸術省に所蔵されている。

マグリットが13歳の時に母親が入水自殺をした。この事実はマグリットにかなり大きい衝撃を与え彼の作品にもそれが現れている。溺死した母親の死が、上・下半身が逆さまの人魚や風景と一体化した女性という形の中に現れている。『その喪失は発想の源であるとともに、多くの作品のなかで際立った強迫観念となっている。』
鏡のついたクローゼットに吊るされているネグリジェだが女性の胸が透けて見える。クローゼットの扉は片方だけ開かれているが、もう一方の扉には鏡がついておりそこにはなにもない空っぽの部屋が映っている。つまりなにも映っていないのだ。虚無感を感じさせる。
クローゼットはマグリットにとっては棺であったのかもしれない。『赤いモデル』でも見られるように内と外、肉体と他の物体を合成して人を物に置き換えてしまうやり方を彼はよく行っている。ポツンと一枚だけそこに残されたネグリジェはエロティックな意味だけでなく亡くなった母親の母性をマグリットに思い起こさせているのだろうか。肌に一番近いところに身につける衣服は母親が亡くなった後も存在している。一枚だけが残されている。
たった一人の母親、そして彼女の想い出を心に呼び起こすのであろう。ネグリジェは肌を隠していながら胸の部分を表している透明性も描いている。存在するのかしないのか、曖昧な問いかけにとどめている。ちなみにタイトルのマック・セネットとはマグリットの自殺した母親の名前である。
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