作品概要
《矢内原の胸像》は、画家のアルベルト・ジャコメッティによって制作された作品。制作年は1959年から1959年で、ジャコメッティ財団に所蔵されている。

《矢内原の胸像》は、スイス出身の20世紀の彫刻家であり、画家でもあるアルベルト・ジャコメッティ(1901-1966)が1959年に制作した油彩画である。
見たままに描くことに限界を知る
モデルの矢内原伊作(1918-1989)は、日本で大学の哲学科の教授であり、サルトル、ジュネ、カミュ研究の専門家だった。矢内原とジャコメッティが出会ったのは1955年のパリだった。以降、頻繁に顔を合わせるようになり、日本に住む矢内原が夏の休暇を利用してフランスに訪れるさいには、会って親交を深めた。
矢内原は、1961年パリのギャラリー・マーグにより発刊された版画誌『デリエール・ル・ミロワール』のなかで、以下のように矢内原は語っている。「長いあいだ時間をかけ、ジャコメッティは頑なに自身の求めるものを追い、決して妥協しなかった。矢内原の肖像画は画家にとっての挑戦であり、冒険であった。ジャコメッティは矢内原の肖像画を通して、「人が見たように正確に顔を写し取る」ということに限界を感じるようになる」
顔を中心に描く
本作では、モデルが胸部まで描かれ、視線はまっすぐ前を見つめている。頭部を中心に何度も筆を運び、制作中の修正を目立たなくさせている。黄土色に塗られた背景からは空間や奥行きを感じない。まわりに余白をとってフレームをつけるのはジャコメッティの従来のスタイルだ。顔を詳細に描けば描くほど、残りの造形が抽象化されていく。最初はモデルを前にして描かれていたが、最後は記憶を頼りに制作していたことがうかがえる。
本作は画家のアトリエで矢内原が撮影した写真に写っていた。制作年も署名も残されていない。画家の生存中には一般に公開されることはなかった。
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