作品概要
《矢内原伊作》は、画家のアルベルト・ジャコメッティによって制作された作品。制作年は1956年から1957年で、ジャコメッティ財団に所蔵されている。

《矢内原 伊作》は、スイス出身の20世紀の彫刻家であり、画家でもあるアルベルト・ジャコメッティ(1901-1966)が1956年から1957年にかけて制作した油彩画である。
モデルとの距離感
ジャコメッティは矢内原の肖像画を通して、「人が見たように正確に顔を写し取る」ということに挑戦した。カンバスに何度も線を描いて枠を定めていくことで、肖像画のなかの人物の視線を強調させ、モデルのまわりのスペースを減らしている。
背景の色の変化はジャコメッティの他の肖像画より顕著に表れている。〝窓〟にも見える枠にモデルをおさめることで、場所の広さや画家の視点を再定義している。これにより画家とモデルとの距離感や肖像画の大きさに関する問題を解決しようとする狙いがある。この問題はジャコメッティにとってとても重要だった、というのも、画家が見ているものと、カンバスに表現されたもののあいだの複雑な関係に関するものだったからだ。
頭部は肖像画のなかでもっとも詳細に描かれる部分で、グレーや黄土色の色調は強められ、濃くなっている。ジャコメッティが頭部の描写に重きを置いていたのは1960年代だった。ちょうどジャコメッティが矢内原をモデルに何枚も肖像画を描いていた頃だ。またその時期には娼婦のキャロラインも描いていた。
モデルとの出会い
モデルの矢内原伊作(1918-1989)は、日本で大学の哲学科の教授だった。ジャコメッティとは、1955年にパリで出会って以降、フランスに訪れるたびに会って親交を深めた。
本作に署名や制作年の記載はない。モデルだった矢内原がとった写真からも特定できない。
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