作品概要
《椅子に座るキャロライン全身像》は、画家のアルベルト・ジャコメッティによって制作された作品。制作年は1964年から1965年で、ジャコメッティ財団に所蔵されている。

《椅子に座るキャロライン全身像》は、スイス出身の20世紀の彫刻家であり、画家でもあるアルベルト・ジャコメッティ(1901-1966)が1964から1965年にかけて制作した油彩画である。
娼婦をモデルに
キャロラインは、ジャコメッティと知り合った娼婦の女の仮名である。ふたりの出会いは1958年、モンパルナスの酒場でのことだった。1960年から娼婦であったキャロラインは酒の席でジャコメッティの隣にすわるようになり、その後も画家が生涯を終えるまでいつもそばについていた。
ジャコメッティはキャロラインをモデルにした肖像画を少なくとも30点残しており、1961年には胸像を制作している。数年前から親交のあった日本の哲学者、評論家である矢内原伊作の肖像画に端を発する絵画の新たな探求を試みていた。キャロラインの肖像画のシリーズはその集大成ともいえる。
距離感を重視
本作は上半身や頭部のみに焦点をあてている通常のキャロラインの肖像画とは異なり、かなり距離を置いて座っている。白いカンバスのまま左右にとられた余白は、小さな頭から量感のある脚が描かれたモデルの遠近感を際立たせている。1960年代に描かれた肖像画の典型らしく、頭部や顔の造形に力を入れている。肩から下の描写は詳細ではなく、足はスケッチそのもので、床と区別するために引かれたグレーの描線とも見分けがつかない。ドレスのために赤で彩色するのも珍しい。
当時キャロラインが同じドレス、同じポーズでいたことから、本作は1964年末から1965年初頭にかけて制作されたものだと思われる。本作は画家の生存中には一般に公開されることはなかった。
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