作品概要
《娼婦一代記(3,モル、愛人契約を解かれ、普通の娼婦に戻る)》は、画家のウィリアム・ホガースによって制作された作品。制作年は1732年から1732年で、大英博物館に所蔵されている。

『娼婦一代記』は、1731年に絵画として、また1732年には版画として作成されたウィリアム・ホガースの六枚組作品で、この絵はその三枚目である。
三枚目の舞台は、ドゥルーリー・レーンのうらぶれた小屋の中である。モルは既に裕福な商人の愛人ではなく、一介の娼婦に堕してしまった。遅く起きたモルの傍に、年老いた側女が仕えている。老女の鼻は一部が欠けており、おそらくは梅毒に罹患しているであろうことが仄めかされる。小屋の入口には足音も静かに忍び寄る官憲らしき男たちの姿が窺える。
モルが座っている寝台は今や彼女が唯一保有する家具の一つである。その足元で尻を高々と掲げる猫の姿は、モルの夜ごとの在り様を暗示している。壁に掛けられた魔女の帽子と杖はどちらも黒魔術の表象であるが、より深長な解釈をするところ、売春が悪魔の所業であることを示しているともいえる。別の位置にかけられている絵から、彼女のお気に入りの人物がわかる。一人は『乞食オペラ』の登場人物である追剥ぎマクヒースで、もう一人は国教会の聖職者にして弁論家のヘンリー・サチェヴェレルであり、二人とも刑罰を受ける身になりながら最後にはどんでん返しで生還する運命を共有する。その上に乗っているのは、梅毒の治療薬であろう。寝台の上には、1730年に絞首刑に処された追剥ぎ強盗団の頭目、ジェ?ムズ・ダルトンのカツラ入れが隠されており、モルとこの男の逢瀬があったことを仄めかしている。
小屋の入口から入ってくる男たちの先頭に立つのは当時辣腕を振るった治安判事ジョン・ゴンソンであり、3名の武装した同心を引き連れ、モルを捕縛しようとしている。モルは(ダルトンから受け取ったのか、恋人の誰かから盗んだのかは定かではないが)新しく手に入れた時計をうっとりと見つめ、胸をあらわにしている。ゴンソンはそれには目もくれず、壁の魔女帽と、ベッドの上に隠されたダルトンのカツラ入れに目を配っている。
この絵の構図は新約聖書のルカ福音書第一章26-39節にある『受胎告知』に似せたもので、モルが聖母マリアを、ゴンソンが天使ガブリエルを示していると考えられる。
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