作品概要
《娼婦一代記(1,モル・ハックアバウト、チープサイドのベル館にたどり着く)》は、画家のウィリアム・ホガースによって制作された作品。制作年は1732年から1732年で、大英博物館に所蔵されている。

『娼婦一代記』は、1731年に絵画として、また1732年には版画として作成されたウィリアム・ホガースの六枚組作品で、この絵はその一枚目である。絵画の方はウィリアム・ベックフォードの別荘「フォントヒル・ハウス」に所蔵されていたが、1755年の火災により焼失してしまった。版画原板は現存しており、ホガースの死後その妻ジェーンが売却した後に転々と所蔵主を変えていたが、1868年から大英博物館に所蔵されている。絵画と版画の双方で複製品が多い。原題はジョン・バニヤンの『天路歴程』(Pilgrim’s Progress)』をもじったもので、内容もそれに倣い、寓意に満ちたものになっている。
一枚目の絵は、主人公のモル・ハックアバウトがロンドンに到着した場面を描く。モルは鋏と針刺しを腕から下げており、針子の働き口を探している様子である。疱瘡に蝕まれた悪名高い老女衒エリザベス・ニーダムが彼女を売春婦にしようと引き止める。淫蕩家として有名なフランシス・チャルティス大佐とポン引きのジョン・ゴーレイが館の前に佇んでモルを値踏みする。チャルティスは浴場を抑えきれず、自分の性器を弄んでいる。二人が立つ家は、道徳の退廃を象徴するかの如く朽ち果てている。
ロンドンっ子や鞍上の聖職者らはモルの様子に見てみぬふりをする。聖職者の馬が鉄鍋の山にぶつかって崩し(それがモルの堕落を予兆し)ているのに、聖職者は殊更無視を決め込むかのようにも見える。モルの荷物右側には屠られた鴨があり、「ロンドンテムズどうりのだいすこないつこへ」と言う拙い綴りで書かれた文字が読める。モルの「いとこ」はおそらく女衒の一味である可能性が高い。彼女の着る白い服は周囲の暗さと対比をなし、その無垢・純朴を象徴する。
絵の構図は、聖マリアが洗礼者ヨハネの母エリザベトを来訪する新約聖書ルカ福音書第一章39節から56節の場面を下敷きにしており、バニヤン作品との関連性を窺える。
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