作品概要
《ヴェロニカのベール》は、画家のオスカー・ココシュカによって制作された作品。制作年は1911年から1911年で、ブダペスト国立西洋美術館に所蔵されている。

内面を重視した肖像画
詩人や劇作家としても知られるオスカー・ココシュカは、分離派の巨匠であるグスタフ・クリムトの弟子にあたる。それまでの伝統的な画法とは対照的な立場を取り、現実をもとに描く自然主義的な表現方法ではなく対象者の内面の心理的な探究を追い求めた画家だった。
彼の大胆な肖像画は本人たちの心の可視化に焦点を置いたもので、これによってココシュカはドイツ表現主義の権威になることができたといえるだろう。
ココシュカのヴェロニカ
《ヴェロニカのベール》はココシュカにとって初めての聖画であるとともに初期作品のなかで重要な1点でもある。彼自身は《ヴェロニカのベール》を「私の心理にかなりちかい宗教画」であると説明している。聖書の外伝文書では、ヴェロニカはエルサレムの女性でゴルゴダの丘でキリストの顔についた血と汗をみずからのショールで拭い、そのショールには救世主の顔が写し取られる奇跡が起きたという。
ヴェロニカの角ばった微白濁の顔は憂いを帯びている。そして細長い指で血が染みたショールを優しく守るように包み込む。これは聖母マリアが幼子のキリストあるいは亡くなったキリストを抱いている伝統的な絵を踏まえたものである。ヴェロニカの姿は円錐状の光に包まれている。背後には女性の象徴である満月があり、グスタフ・マーラーの未亡人アルマ・マーラーを思わせる表現である。短いあいだではあったが、ココシュカはアルマ・マーラーに激しい恋心を抱いていた時期があった。
ただ、この絵の着想はおそらく彼の生活の中であったもう少し冒涜的な逸話がもとになっている可能性がある。《ヴェロニカのベール》を制作していたころ、彼のアトリエの窓を管理人の娘ヴェロニカが拭いていたのだとココシュカは回想録に記している。
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