作品概要
《蟹》は、画家のオスカー・ココシュカによって制作された作品。制作年は1939年から1940年で、テート・ギャラリーに所蔵されている。

亡命先のイギリスで
1938年、ココシュカと婚約相手のオルダはドイツ軍がチェコスロバキアに侵攻してきたために国外逃亡をすることになり、イギリスへと渡ることになる。ロンドンに少しのあいだ滞在すると、ココシュカたちはコーンウォールの南西部にある小さな漁村ポルペッロに移動した。
《蟹》は、ココシュカがそれ以降続けて描くことになるコーンウォールの港の風景画の最初の1枚である。絵の中州には有名なピーク・ロックが突き刺さっている。崖と水は独特な短く素早い筆づかいで描かれ、鮮やかな色が使われている。ふたたびロンドンに戻るときにもココシュカは未完成のキャンバスを持っていき、作業を続けた。制作が終わったとき、風景画そのものだった《蟹》は政治的な比ゆを込めた作品に姿を変えていた。
風刺画になった《蟹》
大きすぎる蟹が前景を占めている一方で、海岸で泳いでいる人物の姿は小さい。泳いでいるのは自分自身でチェコスロバキアを示していて、蟹は当時の英首相ネビル・チェンバレンであるとココシュカは説明している。
大きな体をしたカニは弱いがゆえに威嚇をしている。泳いでいる人は何とか岸にたどりつこうと必死になっている。ココシュカは友人にチェンバレンは「溺れないように泳いでいる人を助けるためにハサミを差し出さなければいけないはずだというのに、いまだに傍観を決め込んでいる」と話していた。
亡命者だったココシュカは、自分が他の国でどのように扱われるか、そしてヨーロッパ各国での難民の窮状にとりわけ敏感になっていた。
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