作品概要
《死者と仮面たち》は、画家のジェームズ・アンソールによって制作された作品。制作年は1897年から1897年で、リエージュ近代美術館に所蔵されている。

取れなくなってしまった仮面
ジェームズ・アンソールが絵の中心に置いた死者の骸骨はぞっとするような笑みを浮かべている。骸骨も人々がつけた仮面もまるで生きているかのような仕上がりになっている。
仮面はすでに顔の一部になってしまっているが、それなのにまだ精神的に虚ろなブルジョワジーの姿や退廃した時間を覆い隠そうとしている。人々が寄り集まっている構図であることから覆い隠そうとする体質は多くの人にまで広く拡がっている問題だったことを示し、同時代の社会にたいするアンソールの批判の意が込められている。
時代を映すアンソールの絵
アンソールが仮面に興味を持っていたのは彼の母親がそうしたものを販売する土産物屋を営んでいたためだ。混凝紙でできていてベルギーのカーニバルで参加者がつける仮面だった。地元のカーニバルが文化的な一体感を生み出す本来の”純粋で素朴な”祭りに戻って欲しいとアンソールは願っていたが、観光や商業、産業に利用されるようなってしまっていたため彼の希望が実現する見込みがなかった。
なによりも彼は北方の伝統を受け継いだ画家であり、戯画的で奇怪で空想的な絵を描いた。ヒエロニムス・ボスやピーテル・ブリューゲルなどの作品に見られる特徴と共通している。しかし、光と色彩が強いところはボスやブリューゲルの絵の根底にある自然主義とは対極的だ。奇抜でありながら不合理な雰囲気を持っているのはざっくりとした質感のある描き方をしているからである。《死者と仮面たち》は不安定だったその時代の深刻さや恐ろしさを表す絵だ。アンソールが象徴主義者として活動していたのは20世紀初頭に表現主義者になる前のことで、そのころ彼は人間の深層心理をむきだしにしてそれを増幅させるための表現方法として、原色と荒々しい質感を用いた。
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