作品概要
《劇場の仮面たち》は、画家のジェームズ・アンソールによって制作された作品。制作年は1908年から1908年で、ティッセン=ボルネミッサ美術館に所蔵されている。

仮面に込められた意味
魔性もあり滑稽さもある仮面たちは、ベルギーの画家ジェームズ・アンソールの作品にはたびたび登場する主要なモチーフである。両親がオーステンドで伝統的なカーニバル用の仮面を販売する店を営んでいたため、アンソールは幼いころから仮面に親しんで育った。そして新しい社会のなかで群衆が抱えている個人個人の孤独を意味するものとして、彼は作品に仮面を使うことにこだわっていた。
フランドル派から受け継ぎ、表現主義やシュールレアリスムへ
《劇場の仮面たち》のどこか落ち着きのないのイメージはブリューゲルやボッシュといったフランドル派の巨匠たちに通じるところがあり、奇怪なイメージは彼が若いころ模写したドーミエやゴヤなどの次々と変化していく構図を思わせる。アンソールという画家が美術のなかで分類しづらい立ち位置にいるのはこのような絵を描いていたところにある。
ベルギーの詩人エミール・ヴェルハーレンは著書の中で《劇場の仮面たち》をアントワーヌ・ヴァトーの《雅宴画(fêtes galantes/フェトー・ギャラント)》と結びつけている。そしてアンソールのひどく特徴的な作品の数々はドイツの表現主義者やフランスの超現実主義者に影響を与えている。ウィレム・デ・クーニングやジャン・デュビュッフェなどが用いたゆがみもアンソールの絵から得た技法である。
現在ティッセン=ボルネミッサ美術館に収蔵されている《劇場の仮面たち》は照明が照らされた舞台での演劇を描いたもので、アンソール独自の象徴主義作品である。役者たちの顔を隠している仮面と劇を見ている観客がつけている戯画的な仮面が混然一体となっている。
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