作品概要
《ノクターン:青と銀-バターシー・リーチ》は、画家のジェームズ・マクニール・ホイッスラーによって制作された作品。制作年は1870年から1875年で、フリーア美術館に所蔵されている。

夜のテムズ川
夜のテムズ川の風景を描いた作品である。ロンドンに住んでいたホイッスラーにとって、テムズ川は常にインスピレーションの源であった。彼は何度か住所を変えながらも、テムズ川にほど近いチェルシーで約40年の間暮らした。1871年の夏、テムズ川の夕暮れの風景に魅せられたホイッスラーは《ノクターン》と呼ばれる32作品からなる連作を製作した。ノクターンという言葉は元々、彼のパトロンであったフレデリック・レイランドが使ったものだが、大都市ロンドンの夜の静けさを表現するのにぴったりのタイトルであった。
写実主義を離れて
この作品は、ホイッスラーがチェルシーの2階建てのアトリエから見たであろうバターシーの眺めを描いている。バターシーはテムズ川をはさんでチェルシーの対岸にあるロンドンの工業地帯で、工場が立ち並び、スモッグに包まれた場所だった。ホイッスラーの都市景観への興味は、ロンドンの前に住んでいたパリでのクールベら写実主義の芸術家たちとの交流に由来しているのかもしれない。
しかしホイッスラーは写実主義にそのまま染まることなく、1870年代になると、ジャポニスムの流行から日本美術のスタイルを取り入れると共に、より抽象性の高い風景画を追求すようになっていった。この作品の平面的で左右非対称の構図、少ない色数は日本美術の影響だが、ホイッスラーはそこに月明かりを加えて工業的な川の景観に詩的で神秘的な美しさを与えている。ホイッスラーは現実をそのまま写し取ることよりも、自らが経験した月夜のテムズ川の雰囲気を色と線、形の組み合わせによって表現することを選んだ。
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