作品概要
《灰色と銀:オールド・バターシー・リーチ》は、画家のジェームズ・マクニール・ホイッスラーによって制作された作品。制作年は1863年から1863年で、シカゴ美術館に所蔵されている。

工業的な風景
ホイッスラーは、日常の風景を繊細な色彩のフィルターに通し、細部を単純化して描くことを得意とした。アメリカ人だがヨーロッパで暮らすことを選んだ彼は、1855年からしばらくの間、パリとロンドンを行き来して生活していた。パリではクールベの大胆なレアリスムと厚みのあるタッチに触れ、ロンドンに戻ってからの彼のテムズ川の描写に影響を与えた。
この作品はロンドンの自宅から見えるテムズ川南岸のバターシー地区の風景を描いたものである。ここではテムズ川の工業的な側面を取り上げ、灰色と茶色を使って工場や汚れた空気、労働者たちの姿をリアリスティックに描いている。
遠くに見える煙を吐く煙突は、モーガン・クルーシブル・カンパニーのもので、川の向こうには1863年に開業したばかりのバターシー鉄道橋も見える。船は石炭運搬船であろう。写実的な描写ではあるが、茶色と灰色の繊細な色使いは、後のより抽象的で色彩の調和を追求した作風を予感させるものである。
色彩の妙を追求
ホイッスラーは生涯、海や川をテーマに作品を描いた。もっともよく知られているのが、夜のテムズ川の風景を描いた《ノクターン》の作品群である。ロンドンのチェルシー地区に居を構えていたホイッスラーは、窓からテムズ川の風景を眺めることができたほか、夜に船に乗ってスケッチすることも好んだという。
色彩の妙を追求したホイッスラーは、描かれた対象が持つ物語性よりもキャンバスの上での色彩や形式の芸術性を次第に重視するようになっていった。タイトルも色や音楽用語など抽象的なものとすることを好んだが、当時は前衛的な考え方だったため、美術評論家からの理解はなかなか得られなかったという。
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