作品概要
《スミレ色と緑のバリエーション》は、画家のジェームズ・マクニール・ホイッスラーによって制作された作品。制作年は1871年から1871年で、オルセー美術館に所蔵されている。

テムズ川の風景と日本美術の融合
1871年のある日、日没前のテムズ川の風景に感動したホイッスラーは、すぐにアトリエに向かい、日没と夜の風景の2作品を一気に描き上げた。前者の日没の風景を描いたものがこの作品であり、日没後の月夜の風景を描いたものは《ノクターン:青と銀―チェルシー》のタイトルでテート・ギャラリーに所蔵されている。
アメリカで生まれながら、画家になるためヨーロッパに渡ったホイッスラー。彼は独自の洗練された美的感覚を持つ人物であり、ジャポニスムの流行によりもたらされた東洋の美術を巧みに自らの作品に取り入れた。この作品はテムズ川の風景を描いたものだが、それを川岸に着物姿の男女を描くことで日本の浮世絵の世界に変えた。右下に描かれた落款のようなサインも、日本美術の影響でホイッスラーが考案したものである。あえてキャンバスの中心に何もない空間を置き、雄大なテムズ川の流れが生み出す微妙な色調を作品の焦点にしている。
作者について
ホイッスラーは1834年にアメリカ・マサチューセッツ州ローウェルで生まれた。父親の仕事の都合で移り住んだロシアのサンクトペテルブルクで絵画を学び、一度アメリカに戻るものの、画家を目指して再びヨーロッパに渡った。はじめパリに居を構えたが、1859年にロンドンに移り、その後の人生の大半を過ごした。
「芸術のための芸術」を支持したことで知られており、キャンバスの上に描かれたもの以上の意味を絵画に持たせることを嫌った。そのため、シンフォニーやノクターンといった音楽に由来する抽象的なタイトルを好み、主題についての具体的な情報よりも、色彩や形態の調和を重視した。
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