作品概要
《ノクターン:青と金色、サン・マルコ広場、ヴェネツィア》は、画家のジェームズ・マクニール・ホイッスラーによって制作された作品。制作年は1880年から1880年で、ウェールズ国立美術館に所蔵されている。

ヴェネツィアの名所
1877年、自らの作品を酷評した美術評論家のジョン・ラスキンを名誉棄損で訴えたホイッスラーだったが、莫大な裁判費用を支払えず、1879年に破産してしまった。経済的に困窮していたホイッスラーの元に、ヴェネツィアを題材にエッチングの連作を製作してほしいとの依頼が舞い込む。喜んで依頼を受けたホイッスラーは恋人と共にヴェネツィアに移り住み、約1年間滞在した。
ヴェネツィアではエッチングとパステル画の製作に取り組んだホイッスラーだったが、油絵も数点残されている。この作品はそのひとつで、夜のサン・マルコ広場を描いたものである。ホイッスラーはかつて、この作品が《ノクターン》シリーズの中の最高傑作だと考えていた。
変わった構図
画面の左側には時計塔が、右半分にはサン・マルコ寺院が描かれている。ヴェネツィアの名所の中でも有名なサン・マルコ寺院は多くの画家が作品にしているが、ホイッスラーの構図は一般的なそれとは異なっている。彼は寺院を中央に置かずに、寺院の右端が画面の外に切れてしまうように描いた。建物自体も、薄暗い中で細部の描写を廃してぼんやりと描かれているのみで、暗闇の中でガス灯の明かりが控えめに白い点で描かれている。
ホイッスラーの絵画の目的は、場所を見たまま正確に描写することではなかった。彼は色と形態の組み合わせを通じて、自身が経験し記憶しているその場の雰囲気を作り出そうとしたのである。昼間とは打って変わって静まり返った暗闇の中に幻想的に浮かび上がる寺院の光景が、見る者の感覚に訴えてくる作品である。
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