作品概要
《黒と金色のノクターン-落下する花火》は、画家のジェームズ・マクニール・ホイッスラーによって制作された作品。制作年は1872?年から1877?年で、デトロイト美術館に所蔵されている。

リゾート地で見た花火
ロンドンの有名なリゾート地であったクレモーン・ガーデンの花火を描いた作品。連作《ノクターン》のひとつで、ロンドンを描いたものとしては連作中最後の作品であり、ホイッスラー中期の頂点となる作品である。
クレモーン・ガーデンは現代の遊園地のような場所で、夜には花火が打ち上げられていた。ここで描かれているのは、もやのかかった暗い夜空に上がった花火がきらめきながら落下してくる光景である。その描写はほとんど抽象画のように色の組み合わせに還元されている。燃えているように光る煙がかろうじて花火の打ち上げられている水面と空間の境目を作っているものの、夜の暗闇ともやによって風景の輪郭はぼやけ、花火を眺める人々の姿は単純化されて透明人間のようだ。
場面の本質を求めて
夜の風景を描いた連作《ノクターン》は、夜の静けさや暗闇の空間が生み出す感覚を表現したものであり、そのための手段としてホイッスラーは色彩の効果を追求した。彼は見た場面をそのまま描くのではなく、より深い、隠された真実を描こうとしたのである。彼にとってもはや物理的な正確さは問題でなく、形のない、一瞬の感覚から場面の本質を捕らえようとしていた。
とはいえ、抽象画が一般的でなかった当時の美術界でこの作品を理解できる者は少なかった。当時影響力のあった美術評論家ジョン・ラスキンが、絵具壺をぶちまけたようだとこの絵を酷評したことから、ホイッスラーは彼を名誉棄損で訴えるに至った。ホイッスラーは訴訟には勝ったものの得られた金額はわずかで、裁判費用を捻出できずに破産することになってしまった。
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