作品概要
《マダムMの肖像》は、画家のアンリ・ルソーによって制作された作品。制作年は1897?年で、オルセー美術館に所蔵されている。

図像解説
複雑に配置された植物は、ルソーが絵の言語としてしばしば使うものである。異なる葉と花のパターンの連続は、リズミカルな構造を作り出す。この肖像画では、大きなパフスリーブの黒い服を着た背の高い女性が、花を背景にして立っている。手が頭よりもはるかに大きいなど、体の大きさ、比率は矛盾している。さらに非現実的なのは、女性の頭の大きさ、前景右にいる小さな猫である。これらの特徴により、画家は人間の姿を印象的に表現することに成功している。
モデルについて
モデルが誰であるかは不明のままだが、依頼されて描かれた可能性はある。ルソーは、報酬が高い程優れた肖像画を描いた。1895年頃に流行った「メディシス」と呼ばれる膨らんだ袖から、制作時期を推測することができる。ブレスレット、エレガントな持ち手のパラソルと繊細なスカーフは、おそらくモデルは裕福な中流階級の女性であることを示している。
描写
ここでは、従来の遠近法の法則は見られない。柔らかく洗練された色彩、鮮明な描写、明瞭な形は、豊かさと光の世界を呼び起こしている。ルソーは、髪を小さく描くことで頭の重要性を減らした(描き直した跡が見える)。腕の非対称性や左脚を前に置くことで、動きが与えられている。猫がボールで遊んでいる自然の背景は、ドレスとパラソルの黒さを強調しながら、この肖像画の堅さをやわらげている。モデルは正面に配置されたパンジーを除き、何の種類かわからないまでに様式化された様々な植物と花に囲まれている。
この作品で、ルソーは無意識に、サロンの肖像画や17世紀のフランドルの肖像画と張り合おうと考えていたようだ。しかし結局、彼は自分自身のスタイルと世界に忠実なままであった。
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