作品概要
《プシュケーの誘拐》は、画家のウィリアム・アドルフ・ブグローによって制作された作品。制作年は1895年から1895年で、個人に所蔵されている。

《プシュケーの誘拐》は神であるキューピッドと、人間の女性であるプシュケーの恋物語を描いた神話が基となっている画だ。
題材の物語
本作を十分に楽しむにはキューピッドとプシュケーの話を知る必要がある。
愛の女神であるヴィーナスは、プシュケーの美しさに激しく嫉妬していた。そして、自分の息子であるキューピッドに、プシュケーが地球上で一番醜い生き物に恋するよう、彼女を矢で射貫くように命じた。キューピッドは了承してプシュケーのところに行くが、プシュケーを見ようとかがんだ際、一本の矢が偶然に落ちて彼を射貫き、キューピッドがプシュケーに恋することとなってしまった。
ブグローはこのキューピッドとプシュケーの話が非常に気に入っており、他にも同じ題材で描かれた1890年の《アムールとプシュケー、子供たち》、1889年の《プシュケーとキューピッド》などがある。
象徴とメッセージ
数々の試練や障害を乗り越えることでプシュケーは神々に不死の存在としてもらい、二人が結婚して天界へと昇っていく姿が描かれている。キューピッドがプシュケーを愛しく抱き締め、妻にするため違う世界へと連れていく。プシュケーに新しく生えた蝶の羽は不死の象徴だ。白と紫で彩られた眩いばかりの空を背景にして、天に向かって飛ぶ二人の姿は夜明けと新しい人生を示している。
彼女の表情は至福の喜びに満たされており、しなやかな体は柔らかく、傷つきやすい存在に見える。キューピッドの腕はしっかりとプシュケーを包み込み、所有感というメッセージが込められている。一方でプシュケーのポーズは完全に身を任せた形となっている。
ブグローの思い
二人が一緒になることは生命の現実や人間の道理を超え、永遠の魂の結びつきとなり、キリスト教の教義も異教徒の慣例も全く関係ない世界だ。
もしかしたら、本作を制作する20年近くも前に亡くなった最愛の妻の悲劇的な死を思い出し、故人の象徴的な再現と永遠の愛への熱烈な願い、そして天国で再び一緒になることを信じているブグローの思いが込められているのかもしれない。
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