作品概要
《記憶の固執の崩壊》は、画家のサルバドール・ダリによって制作された作品。制作年は1952年から1954年で、ザ・ダリ・ミュージアムに所蔵されている。

本作は1931年に描かれたダリの代表的な作品《記憶の固執》を描きなおしたものである。キャンバス地に油彩で描かれており、25.4cm×33cmとサイズ的には小さい作品である。
正式名称は《記憶の固執の調和した崩壊が始まっている高度に着色された魚の目の染色体》であり、《記憶の固執の分解》と称されることもある。
量子力学との関係
このバージョンでは原作の景色は水の氾濫によって沈んでしまっている。水面の上下で起こっている出来事が描かれており、カダケスの景色は水の上に漂っている。
原作で平野や岩だった部分は、ブロックのような構造に変わっており、お互い距離を保って浮かんでいる。これは物質が原子へと崩壊する様を表しており、当時注目されつつあった量子物理学との関係が見受けられる。
原子ミサイル
ブロックの背後には、ツノ状のものが飛んでいく様が描かれており、原子ミサイルを象徴している。こうした表現により、地球には秩序が存在するにも関わらず、人類は自分たちの破滅をもたらそうとしていることが強調されている。この作品が作られた背景としては、ダリの原子物理学への傾倒が挙げられる。
また平和の象徴であるオリーブの木は左側に描かれているものの、それは分断されており、原子ミサイルが平和を脅かしていることも暗示されている。
原子爆弾とダリ
1945年の8月に最初の原子爆弾が投下されると、ダリは原子物理学に興味を抱くようになった。ダリは原子について「お気にいりの思考の糧」だと述べており、『ポルト・リガトの聖母』などこの時期のダリの様々な作品にその影響が見て取れる。
物質は原子で構成されており、互いに触れ合うことはないと知り、ダリは彼の作品においてその現象を表現しようとした。本作では等間隔で浮遊するブロックの集合や後方へ飛んでいくミサイルのようなモチーフに、そうしたダリの原子物理学への傾倒を見て取ることができる。
時計のモチーフの変化
また本作は、《記憶の固執》で扱われていた、ダリのモチーフとも云うべき「グニャグニャの時計」にも変化がある。前作では融解する腕時計を通して、硬質ではなく流体としての時間が表現されていたが、本作ではそのモチーフの意義は大きく後退している。
原子への崩壊がモチーフの主題となっており、ぐにゃぐにゃの時計は周囲に散らばったオブジェクトの1つとして主題からは外れつつある。
この作品は覚醒時でははなく、夢の中を描いていることがわかってよかった
2019年9月9日 8:39 pm, ID 14208