作品概要
《戦場から去る負傷した胸甲騎兵士官》は、画家のテオドール・ジェリコーによって制作された作品。制作年は1814年から1814年で、ルーヴル美術館に所蔵されている。

馬とジェリコー
ロマン主義の先駆者と言われるテオドール・ジェリコーは生涯馬に魅せられた画家である。彼は1791年に裕福な家に生まれ、幼少期から馬に親しみ、1808年に馬と近代軍事の画家として有名だったカルル・ヴェルネに弟子入りしたが、2年後に「私の1頭の馬は彼の6頭をむさぼり食っただろう」と師を超えたことをほのめかして辞めている。
作品の成り立ち
この《戦場から去る負傷した胸甲騎兵士官》は1814年の作品であり、ジェリコーにとって2度目のサロン出展となった。タイトルに「負傷した」とあるが、どこにも傷が見当たらないのがこの作品の謎でもある。
2年前にサロン初出展で金賞を得た《突撃する近衛猟騎兵士官》も馬1頭に兵士1名ではあったが、雰囲気は大きく異なっている。ジェリコーは前作ではクールな寒色とフレッシュな緋色に暖色のかけらを合わせ、贅沢にパレットを使用したが、本作では全体的に暗い色を用いている。
これは単に当時のナポレオンが退けられ、敗北は避けられない、という重苦しい雰囲気にジェリコーが感化されただけではない。後に彼は「黒い影の量が増えれば増えるほど、その作品の芸術的価値は高くなる」と述べている。
出展後のジェリコー
前作と同様にこちらも買い手がつかなかったため、ジェリコーは国民衛兵に志願し一旦画業から離れるが、数年後には代表作となる《メデューズ号の筏》に取り掛かり始めた。
生涯馬が好きだったジェリコーにとって皮肉なことだが、1823年の落馬事故により持病の脊椎結核が悪化し、翌年に32歳という若さで死去している。
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